・・・ 野口という大学教授は、青黒い松花を頬張ったなり、蔑むような笑い方をした。が、藤井は無頓着に、時々和田へ目をやっては、得々と話を続けて行った。「和田の乗ったのは白い木馬、僕の乗ったのは赤い木馬なんだが、楽隊と一しょにまわり出された時・・・ 芥川竜之介 「一夕話」
・・・次いで、前に云ったムウニッヒを過ぎて、再び英吉利に入り、ケムブリッジやオックスフォドの教授たちの質疑に答えた後、丁抹から瑞典へ行って、ついに踪跡がわからなくなってしまった。爾来、今日まで彼の消息は、杳としてわからない。「さまよえる猶太人・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・私は顔も洗わずに天文学に委しい教授の処に駈けつけた。教授も始めて実物を見るといって、私を二階窓に案内してくれた。やがて太陽は縦に三つになった。而してその左右にも又二つの光体をかすかながら発見した。それは或る気温の関係で太陽の周囲に白虹が出来・・・ 有島武郎 「北海道に就いての印象」
・・・科目は教師が黒板に書いて教授するのを、筆記帳へ書取って、事は足りたのであるが、皆が持ってるから欲しくてならぬ。定価がその時金八十銭と、覚えている。 七 親父はその晩、一合の酒も飲まないで、燈火の赤黒い、火屋の亀裂・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・ この猛犬は、――土地ではまだ、深山にかくれて活きている事を信ぜられています――雪中行軍に擬して、中の河内を柳ヶ瀬へ抜けようとした冒険に、教授が二人、某中学生が十五人、無慙にも凍死をしたのでした。――七年前―― 雪難之碑はその記念だ・・・ 泉鏡花 「雪霊続記」
・・・ 二六 その後、四、五十日間は、学校へ行って不愉快な教授をなすほか、どこへも出ず、机に向って、思案と創作とに努めた。 愉快な問題にも、不愉快な疑問にも、僕は僕そッくりがひッたり当て填る気がして、天上の果てから地の・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・夫が今日では大学でも純粋文学を教授し、文部省には文芸審査委員が出来て一年中の傑作が国家の名を以て選奨せらるゝようになった。文部省の文芸審査に就て兎角の議論をする人があるが政府は万能で無いから政府の行う処必ずしも正鵠では無い。且文芸上の作品の・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・語学校の教授時代、学生を引率して修学旅行をした旅店の或る一夜、監督の各教師が学生に強要されて隠し芸を迫られた時、二葉亭は手拭を姉さん被りにして箒を抱え、俯向き加減に白い眼を剥きつつ、「処、青山百人町の、鈴木主水というお侍いさんは……」と瞽女・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・それゆえにこの学校に三、四十人の教授がいるけれども、その三、四十人の教師は非常に貴い、なぜなればこれらの人は学問を自分で知っているばかりでなく、それを教えることのできる人であります」と。これはわれわれが深く考うべきことで、われわれが学校さえ・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・何故かと云うに一般民衆にとって大学教育を受くると云うことは経済的に殆んど不可能の事であるし、今一つは大学教授と云うような人は自分の専門的の学科には忠実であろうが、学生の人格の養成や、或はどのような人間を作ろうかなど云うような事に就ては欠陥が・・・ 小川未明 「人間性の深奥に立って」
出典:青空文庫