・・・そのころの私が自分の周囲に見いだす著作者たちはと言えば、そのいずれもが新聞社に関係するとか、学校に教鞭を執るとか、あるいは雑誌の編集にたずさわるとかして、私のように著作一方で立とうとしているのもめずらしいと言われた。私はよくそう思った。これ・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・かれの宿直をした室、いっしょに教鞭を取った人たち、校長、それからオルガンの前にもつれて行ってもらった。放課後で、校庭は静かに、やはり同じようにして、教師や生徒がボールなどをなげていた。 弥勒の村は、今では変わってにぎやかになったけれども・・・ 田山花袋 「『田舎教師』について」
・・・ 第一、嘗て、小学校に教鞭を取って経験のある彼女は、何故又、小学校で女生徒のよい指導者にはなれないのでしょう。 よし又、教員として技量に自信を持たなければ家政婦としても、家事助手となっても、生きて行く道は数多あります。方法が見出し難・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・ 処々に教鞭を取って、平日に纏った休日を持たない茂樹は、試験が済んで、新学期迄数日の暇が出来ると、早速、郷里に父親を訪問する事を思い立った。 老人は、もう七十歳に近い。近頃、健康が勝れないと云う稍々悲観した手紙を受取って居たので、三・・・ 宮本百合子 「われらの家」
出典:青空文庫