・・・ わたしは詩というものが書けないけれども、詩をこのみます。散文では、何かの間にはさまって数行しか書けない人生の感覚を、詩は純粋にそのものとして一つの奥ゆきある現実としてうち出します。これらの詩によってあらわされている人生の感じかたは、わ・・・ 宮本百合子 「鉛筆の詩人へ」
・・・『仰日』の作者のみならず、わたくしたちは、散文・短歌何によらず、その道での常套で完成したのでは意味がないと思います。まして『檜の影』の同人でいられる方々の御生活、生きゆく思いの痛切なことは、言葉をつくせず、それだからこそ、存在のあかしと・・・ 宮本百合子 「歌集『仰日』の著者に」
・・・ この間うち、散文精神というようなことが考え直され、論議された。この散文精神という表現は武田さんが三四年前云い出されたことで、云い出された心持には、現実に肉迫して行ってそこにあるものをそれなり描き出すことで、現代のあるがままの姿その・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
・・・ 作家は、一層労働者生活の現実に即し、文学におけるプロレタリア・リアリズムのために各産業別に組織されるべきだ、そして、一年に、どの産業では最少限何篇の小説、戯曲を、どの産業では散文、詩、各何篇という風に計画的に製作したらどうか。この場合・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・然主義が日本に移植されてから、その社会的事情に従って次第に低俗な写実主義に陥って来ている文学の伝統と計らずも微妙な結合を遂げ、今日一部の作家に見られる些末的な、或は批判なき風俗小説を生むに至っている。散文精神という言葉はこれらの作家達によっ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・過去数年間、新しき文学と作家の社会性拡大のために先頭に立っていたプロレタリア作家たちが、続々とあとへすさって来て、林氏のように自身の文学の本質を我から切々と抹殺し、或は西鶴を見直して、散文精神を唱え出した武田麟太郎氏のように一般人間性、性格・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・はじめの方に散文と詩とのことが語られているところがある。アランに云わせると、散文は自己自身と他からの働きかけとの間の調整を求めるのを法則としていて、従って外的ないろいろな力に追いまわされもするものであるが、歌・詩は、自己の均衡の上に築かれて・・・ 宮本百合子 「作品のよろこび」
・・・ 広津和郎がこの時代的な文学の紛糾摸索に対して「散文精神」を唱えたことも興味がある。「新しい散文精神は現実当面の問題――アンティ文化の嵐に直面してよくも悪くも結論を急がずに、じっと忍耐しながら対象を分析してゆく精神結論を急がぬ探究精神こ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ いろいろな作家によって、散文精神ということも云われている。だが、面白いところは、今日文学に求める何かを切実に感じて胸にもっている多くの人々は、いろいろの作家がいろいろの表現でそれぞれの探求を表現しているのをもちろん注意ふかく、敬意をも・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・其故斯うして散文を書いて見る。今の私の心持には、此の散文も詩に近いような思いの律動を以て浮んで来るのである。 魂が洗練されない事は恐ろしい。人にも、自分にも沢山の見える見えない悲劇を与える。自分の為に或る幾つかの魂が苦しみ、歎き、沈・・・ 宮本百合子 「追慕」
出典:青空文庫