・・・手狭であるが全体がよく整理されて乱雑なさまは毛ほどもなく、敷居も柱も縁もよくふきこまれて、光っている。「御免なさい。」と武は上がり口の障子をあけたが、茶の間にだれもいない。「武です。」とつけ加えた。すると座敷で、「徳さんかえ、サ・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・私塾と云えばいずれ規模の大きいのは無いのですが、それらの塾は実に小規模のもので、学舎というよりむしろただの家といった方が適当な位のものでして、先生は一人、先生を輔佐して塾中の雑事を整理して諸種の便宜を生徒等に受けさせる塾監みたような世話焼が・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・また芸術は必して直接にわれらの実行生活を指揮し整理する活動でもない。六 余論としてここに一言を要するのは、史上にいわゆる人生観上の自然主義である。過去において明らかにかような名辞を用いたのは、私の知る限りでは、Profess・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・いやなもの、きらいなものを、たんねんに整理していちいちこれの排除に努力しているうちに日が暮れてしまった。ギリシャをあこがれてはならない。これはもう、はっきりこの世に二度と来ないものだ。これは、あきらめなければいけない。これは、捨てなければい・・・ 太宰治 「一日の労苦」
・・・あとの言葉を内心ひそかにあれこれと組み直し、やっと整理して、さいごにそれをもう一度、そっと口の中で復誦してみて、それから言い出した。「芸術の制作衝動と、日常の生活意慾とを、完全に一致させてすすむということは、なかなか稀なことだと思われますが・・・ 太宰治 「花燭」
・・・主観を言葉で整理して、独自の思想体系として樹立するという事は、たいへん堂々としていて正統のようでもあり、私も、あこがれた事がありましたが、どうも私は「哲学」という言葉が閉口で、すぐに眼鏡をかけた女子大学生の姿や、されこうべなどが眼に浮び、や・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・モンテーニュの論文をことごとく点字に写し取った中から、あらゆる思想や、警句や、特徴や、挿話を書き抜き、分類し、整理した後に、さらにこの著者が読んだだろうと思われるあらゆる書物を読んだり読んでもらったりして、その中に見出される典拠や類型を拾い・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・に関する十分の知識を基礎としてそれらの資料の整理をしなければならないことはもちろんであるが、しかし整理は百年の後でも出来る。資料は一日おくれたら永久に失われる。私はこの機会に夏目先生に関するあらゆる隠れた資料が蒐集され記録される事を切望して・・・ 寺田寅彦 「埋もれた漱石伝記資料」
・・・近ごろになってわれわれはそれを少しばかり整理しみがき上げて、そうしていかめしい学という名をつけたのである。 さて、これらの原始的な世界像構成要素が映画ではどういうふうに置き換えられて代表されているかを考えてみる。 まず「質量」はどう・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・ わたくしは或日蔵書を整理しながら、露伴先生の『言』中に収められた釣魚の紀行をよみ、また三島政行の『葛西志』を繙いた。これによって、わたくしはむかし小名木川の一支流が砂村を横断して、中川の下流に合していた事を知った。この支流は初め隠坊堀・・・ 永井荷風 「放水路」
出典:青空文庫