・・・その姿は見れば見るほど、敵役の寸法に嵌っていた。脂ぎった赭ら顔は勿論、大島の羽織、認めになる指環、――ことごとく型を出でなかった。保吉はいよいよ中てられたから、この客の存在を忘れたさに、隣にいる露柴へ話しかけた。が、露柴はうんとか、ええとか・・・ 芥川竜之介 「魚河岸」
・・・主役をつとめるノバリーク兄弟とその敵役ショーンブルクの相貌もこの一種特別な感じを強めるもののように思われた。しかもそれらの顔のクローズアップのむしろ頻繁な繰り返しはいよいよその暗い印象を強めるのであった。 彗星の表現はあまりにも真実性の・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・て、はじめてクリスチナの身分がわかり、結婚をする気でいた野心家の貴族との張り合い、その他所謂映画らしい、いきさつがあって、クリスチナが到頭退位してそのスペインの男が帰国する船へかけつけると、当の対手は敵役に決闘をしかけられ既に瀕死。クリスチ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫