・・・ こうして見ると、作家は時代が苦しいとき、あながち文才を駆使して、現実整理の手腕を振うことを求められているものでもないことが、改めて思われる。然しそのことは、小説らしくない小説を書いて見せるという極く所謂小説家らしい方法、の肯定となるの・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・彼らに文才がなかったのではなく、日本の社会と文学の意識が、まだ未熟であったからです。野間という作家が「暗い絵」をどういう工合に完成させるか、そしてさらに、その次には、どういうテーマで、どういう筆致を示すか、注目していいと思うのです。 こ・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・所謂お品をよくするのでなしに、彼女の生活力と文才とを健全に成長させ、境遇の意味をひろい視野から理解させてやることこそ周囲の人の責任であろうと思う。〔一九四一年一月〕 宮本百合子 「『長女』について」
・・・娘さんたちの文才というひとくちのなかに二つのものを概括してしまうことのできないものが感じられた。 大迫さんには、よほど前、どこかの雑誌の記者として働いていられた時分にちょっとお会いしたことがあった覚えがある。ずっと会わずにいて、新聞・・・ 宮本百合子 「若い婦人の著書二つ」
・・・ ベルリンにいる間、秀麿が学者の噂をしてよこした中に、エエリヒ・シュミットの文才や弁説も度々褒めてあったが、それよりも神学者アドルフ・ハルナックの事業や勢力がどんなものだと云うことを、繰り返してお父うさんに書いてよこしたのが、どうも特別・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫