・・・それは毎週一度ずつ開かれる詮衡委員会が新刊児童文学につけた成績表である。 ――赤いのが一番いい部です。紫、黒のになると他の図書館へは買いません。緑のは、私共自身にはっきりわからないのです。果して子供が面白がるか、理解するか、若しかすると・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
二ヵ月ばかり前の或る日、神田の大書店の新刊書台のあたりを歩いていたら、ふと「学生の生態」という本が眼に映った。おや、生態ばやりで、こんなジャーナリスティックな模倣があらわれていると半ば苦笑の心持もあってその本を手にとってみ・・・ 宮本百合子 「生態の流行」
・・・この間もある大きな新刊書を売る店で、その疑いをもった。セイラー服の少女が三四人で本を見ているのだが、その眼にも口元にも何の感興も動いていず、つよい好奇心のかげさえない。あの棚でちょっと一冊、この台でバラバラ、又あの台でバラバラ。そして流眄で・・・ 宮本百合子 「祖父の書斎」
・・・ そう思って、新刊書のおかれている網棚の方へ目を移そうとしたとき、入口わきの凹みに、横顔をこちらへ向けて小卓に向い、何か読んでいる一人の司書の老人に注意をひかれた。黒い上っぱりを着ている。袖口がくくられてふくらんでいる。その横顔の顎の骨・・・ 宮本百合子 「図書館」
・・・同じようにして待つ間を、そこの右手にある新刊書棚など眺めている。ふと見るとその棚に、「新女大学」という一冊の本がある。著者は菊池寛。経済年鑑のようなものを借りに来ている和服の若い女のひとも、洋装で、ドイツ語の医学書を借りているひとも、そのほ・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・ ブック・レビュウをして深く感じることは、ただ月二三冊の新刊の本をとりあげていって見ても、読者の本を読んでゆく一貫した方法というものに対しては、大して貢献するところがないであろうという不安である。そこで、本月と来月とはこれまでのいわばし・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・然るに昨年の暮におよんで、一社員はまた予をおとずれて、この新年の新刊のために何か書けと曰うた。その時の話に、敢て注文するではないが、今の文壇の評を書いてくれたなら、最も嬉しかろうと云うことであった。何か書けが既に重荷であるに、文壇の事を書け・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫