・・・ 例えば、広島に原子爆弾が出現した時、政府とそして政府の宣伝係の新聞は、新型爆弾怖るるに足らずという、あらぬことを口走っている。そしてこれを信じていた長崎の哀れな人々は、八月二十日を待たずに死んで行ったではないか。 原子爆弾と前後し・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・などと、戦争がすんだら急に、東条の悪口を言い、戦争責任云々と騒ぎまわるような新型の便乗主義を発揮するつもりはない。いまではもう、社会主義さえ、サロン思想に堕落している。私はこの時流にもまたついて行けない。 私は戦争中に、東条に呆れ、ヒト・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・僕はいまの人の小説はあまり読まない事にしているので、君の小説もたった一つしか拝見した事はないのだが、何でも、新型の飛行機を発明してそれに載って田圃に落ちたとかいう発明の苦心談、あれは面白かった。」 私はやはり黙って首肯した。しかし、そん・・・ 太宰治 「やんぬる哉」
三十年ほどの間すっかり俳句の世間から遠ざかって仮寝をしていた間に、いろいろな「新型式俳句」が発生しているのを、やっとこのごろ目をさましてはじめて気がついて驚いているところである。二十二字三字四字から二十五字六字というのがあ・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・そして絵巻物に見る牛車と祭礼の神輿とに似ている新形の柩車になった。わたくしは趣味の上から、いやにぴかぴかひかっている今日の柩車を甚しく悪んでいる。外見ばかりを安物で飾っている現代の建築物や、人絹の美服などとその趣を同じくしているが故である。・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・物干には音羽屋格子や水玉や麻の葉つなぎなど、昔からなる流行の浴衣が新形と相交って幾枚となく川風に飜っている。其処から窓の方へ下る踏板の上には花の萎れた朝顔や石菖やその他の植木鉢が、硝子の金魚鉢と共に置かれてある。八畳ほどの座敷はすっかり渋紙・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・ ファシズムが、イデオロギーの面でも、左からまわってやってきているという例は、猪木正道氏、渡辺慧氏などという新型のジャーナリズム流行児の出現にも注目されます。 過去十数年にわたってわたしたち日本の人民は、正しい社会科学の本もよめなか・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ アメリカの最新型のスタイル・ブックが紹介されて、そこには見事なイヴニング・ドレスが華やかな裾を拡げて示されていました。また日本の平面的な顔ではとても冠りこなすことの出来ない、風変りな大帽子などの新型も示されていました。それらが、わたく・・・ 宮本百合子 「自覚について」
・・・ この小説は「千八百三十八年の七月の半頃」新型馬車「ミロール」に乗って大学通りを走っている、でっぷり太った中背の男の説明から始る。 初めの三行目から作者は自分の言葉で服装について一部のパリ人の抱いている常識を非難しながら、その男がや・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ところが、こんにち、日本の政治権力をにぎってはなさない独占資本の勢力は、便乗の新型を行っている。ミズリー号の上での調印と一緒に日本の土地にあがって来た勢力を迎えて、日本の旧勢力者たちもはじめのうちこそ日本の民主化のためにはこういうこともした・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
出典:青空文庫