・・・ 何を、こいつら……大みそかの事を忘れたか。新春の読ものだからといって、暢気らしい。 田畑を隔てた、桂川の瀬の音も、小鼓に聞えて、一方、なだらかな山懐に、桜の咲いた里景色。 薄い桃も交っていた。 近くに藁屋も見えないのに、そ・・・ 泉鏡花 「若菜のうち」
・・・「謹賀新春。」「賀正。」「頌春。」「謹賀新年。」「謹賀新年。」「謹賀新年。」「謹賀新年。」「賀春。」「おめでとございます。」「新年のおよろこび申し納めます。」「賀春。」「謹賀新年。」「頌春。」「賀春。」「頌春献寿。」・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 以上は新春の屠蘇機嫌からいささか脱線したような気味ではあるが、昨年中頻発した天災を想うにつけても、改まる年の初めの今日の日に向後百年の将来のため災害防禦に関する一学究の痴人の夢のような無理な望みを腹一杯に述べてみるのも無用ではないであ・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・汽車の時間が迫ったので、みんな店先で草鞋をはいたところへやっと出来て来たので、上り口に腰かけたまま慌ただしい新春を迎えたのであったが、これも考えてみるとやはり官能的の出来事であった。やっと間に合った汽車の機関車に七五三松飾りのしてあったのが・・・ 寺田寅彦 「二つの正月」
・・・と闘っているニュースをのせ、四日には「新春いろどる新入党」と作家・芸能人の入党記事はなやかだった。すべての記事が選挙闘争めざしてプラスに統一されているなかに、なぜポツンと「火ばな」が、ああいう投書をのせなければならなかったのだろうか。奇異な・・・ 宮本百合子 「事実にたって」
尊敬する宋慶齢夫人に。 中華人民共和国の輝やかしい一九五〇年の新春を慶賀いたします。 二〇世紀は、人類にとって、すばらしい人間的理性の勝利の世紀となりつつあります。一九一七年の十月には、地球の六分の一を占める地域に・・・ 宮本百合子 「宋慶齢への手紙」
・・・なかなか烈風吹きすさぶ新春です何卒御自愛下さい。宮本百合子 一九四三年九月八日〔大森区新井宿一ノ二三四五 高根包子宛 本郷区林町二一より〕 先日は山からのおたよりありがたく頂きました。お忙しくてもいつも御元気で本当に何よ・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
出典:青空文庫