・・・宿屋の硯を仮寝の床に、路の記の端に書き入れて、一寸御見に入れたりしを、正綴にした今度の新版、さあさあかわりました双六と、だませば小児衆も合点せず。伊勢は七度よいところ、いざ御案内者で客を招けば、おらあ熊野へも三度目じゃと、いわれてお供に早が・・・ 泉鏡花 「伊勢之巻」
・・・ 木曾道中の新版を二三種ばかり、枕もとに散らした炬燵へ、ずぶずぶと潜って、「お米さん、……折り入って、お前さんに頼みがある。」と言いかけて、初々しくちょっと俯向くのを見ると、猛然として、喜多八を思い起こして、わが境は一人で笑った。「はは・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・それにもかかわらず絶倫の精力を持続して『八犬伝』以外『美少年録』をも『侠客伝』をも稿を続けて連年旧の如く幾多の新版を市場に送っておる。その頃はマダ右眼の失明がさしたる障碍を与えなかったらしいのは、例えば岩崎文庫所蔵の未刊藁本『禽鏡』の失明の・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・の決闘」が出ました。 ことしは、実業之日本社から「東京八景」が出ました。二、三日中に、文芸春秋社から「新ハムレット」が出る筈です。それから、すぐまた砂子屋書房から「晩年」の新版が出るそうです。つづいて筑摩書房から「千代女」が、高梨書店か・・・ 太宰治 「私の著作集」
・・・古典が続々新版になる一方では新思想ものが露店からくずかごに移されて行くのも不思議である。 それにしても日々に増して行く書籍の将来はどうなるであろうか。毎日の新聞広告だけから推算しても一年間に現われる書物の数は数千あるいは万をもって数える・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ 新版のマルクス=エンゲルス選集は、現代作家のだれだれのところに置かれるようになるだろうか。マルクス=エンゲルス全集、レーニン全集、スターリンの論文集と三つを眺めわたすと、その文体にまでも人民解放の歴史の足どり、社会主義の実現と発展のあ・・・ 宮本百合子 「生きている古典」
・・・素晴らしそうなのが沢山あり、特にバートンのアラビアンナイトの原版、小画風の插画のあるキング・アーサー物語の新版がひどく興味をそそった。日夏耿之介氏がアラビアンナイトを訳されると云う広告を見たこともおもい出し、黒衣聖母のうしろを見たら、バート・・・ 宮本百合子 「静かな日曜」
・・・こういう記事は、いまのジャーナリズムで新版水戸黄門膝くり毛めいた効果をもっている。日本の人々の心に過去の幻のかげとしてのこっている天皇や宮さまというものの権威、しかもそれが、ふーんなるほど、ああいう人たちというのはそういうものなのかねえ、と・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
出典:青空文庫