・・・あれを読んで人生問題の根元に触れていないから駄作だと云うのは数学の先生が英語の答案を見て方程式にあてはまらないから落第だと云うようなものである。デフォーは一種の写実家である。ロビンソンクルーソーを読んでテニソンのイノック・アーデンのように詩・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・これでもまだちょっと分らないなら、それをもっと数学的に言い現わしますと、己のためにする仕事の分量は人のためにする仕事の分量と同じであるという方程式が立つのであります。人のためにする分量すなわち己のためにする分量であるから、人のためにする分量・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・それなども、つまりはそれらの女性たちが方程式の形だのでは可成りの科学知識を与えられているのに、教育のうちに肝心の科学精神を何も体得させられていないために、実験室があるわけでもない日々の暮しの中では、その知識も死物となって行くのだろうと思う。・・・ 宮本百合子 「科学の精神を」
・・・一間に一間半もある大ペチカのある病院の台所の隅で ターニャは代数の方程式を書くのだ。――お湯ぬるくありませんか――丁度いい 一寸黙って居たがターニャは愉しそうに伸びをして、両腕を頭の後に組み乍ら云った――もうじき私、休みを貰・・・ 宮本百合子 「無題(七)」
出典:青空文庫