・・・声でケイサツを馬鹿呼ばりし、自分の息子を賞め、こんなことになったのは他人にだまされたんだと云い、息子をとられて、これからどう暮して行くんだ――それだけの事を文句も順序も同じに繰りかえして、進は腕のいゝ旋盤工で、これからどの位出世をするのか分・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・クレオパトラでも三毛ねこでも畢竟は天然の陶工の旋盤なしにひねり出した壺である。この壺の中味が問題になるのであろう。 粘土がなくては陶器はできないが粘土があっただけではやはり陶器はできない。これはあたりまえである。しかしこのあたりまえな事・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ 工場では、モーターや、ベルトや、コムベーヤーや、歯車や、旋盤や、等々が、近代的な合奏をしていた。労働者が、緊張した態度で部署に縛りつけられていた。 吉田はその工場に対してのある策戦で、蒸暑い夜を転々として考え悩んでいた。 蚊帳・・・ 葉山嘉樹 「生爪を剥ぐ」
・・・ 教室へ入って行って見ると、仕事着を着た男女生徒が、旋盤に向って注意深く作業練習をしているところである。ひろい窓から日光が一杯さしている教室中は森として、機械の音だけが響いている。もう白い髪をした指導者が一人一人の側によって仕事ぶりを親・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・ この高岡という闘士は十一歳の時から硝子工場でちゃんとした寝どこさえ与えられず働き、後旋盤工として働いていたのだそうです。そういう経験をもっていて労働者農民の国ソヴェト同盟の暮しを見たのだから、プロレタリアートの国ソヴェト同盟では、国庫・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・二脚のテーブルといくつかの椅子があって、鋳型職場、旋盤からの若者が四五人八時間の働きを終って楽に坐っている。初歩の文芸部員たちは多くの場合詩人である。 ――今日は誰が読むね。 マップからの指導者が、煙草をふかしつつ一同を見渡す。・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・これまでは年期奉公に出されていたような若い農村の娘たちが、どんどん旋盤をつかい、電気穿孔機をつかって精密機械の製作に従うようになった。それらの機械の精巧さ、小学校を出たばかりの女の子でも使えるまで高度に調整され、単純化された分業の過程という・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・ ワーニカの親父は、旋盤工で、「鎌と鎚」工場に勤続二十五年の労働者だ。親父は一九一八年に党員になった。 ワーニカは、「鎌と鎚」工場の工場学校でずっと勉強し、共産党青年だ。去年、工場委員会が彼を職業組合へ推薦して、モスクワ大学で経済と・・・ 宮本百合子 「ワーニカとターニャ」
出典:青空文庫