・・・もっと卒直にいえば、諸君は諸君の詩に関する知識の日に日に進むとともに、その知識の上にある偶像を拵え上げて、現在の日本を了解することを閑却しつつあるようなことはないか。両足を地面に着けることを忘れてはいないか。 また諸君は、詩を詩として新・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・ 学校の裏の竹やぶが日に日に悲しそうに鳴っています。すると子供は、窓の外をじっとながめて空想にふけりました。これを見つけた教師は、「なんで、そう横を向くんだ。」としかって、子供をにらみました。子供は、また、毎日教師からしかられたので・・・ 小川未明 「教師と子供」
・・・そして、その病気は、日に日に、重くなるばかりでした。 医者は、ついに恢復の見込みがないと、見放しました。そのとき、主人は、この世を見捨ててゆかなければならぬのを、なげきましたばかりでなく、女は、夫に別れなければならぬのを、たいへんに悲し・・・ 小川未明 「ちょうと三つの石」
・・・今日の娘の恋は日に日に軽くなりつつある。さかしく、スマートになりつつある。われらの祖先の日本娘はどんな恋をしたか、も少し恋歌を回顧してみよう。言にいでて言はばゆゆしみ山川のたぎつ心を塞かへたりけり思ふこと心やりかね出で来れば山を・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・河原続きの青田が黄色く成りかける頃には、先生の小さな別荘も日に日に形を成して行った。霜の来ないうちに早くと、崖の上でも下でも工事を急いだ。 雪が来た。谷々は三月の余も深く埋もれた。やがてそれが溶け初める頃、復た先生は山歩きでもするような・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・ Kの怪我はたいしたこともないようだ。日に日に快方に向っている。 三日まえ、私は、用事があって新橋へ行き、かえりに銀座を歩いてみた。ふと或る店の飾り窓に、銀の十字架の在るのを見つけて、その店へはいり、銀の十字架ではなく、店の・・・ 太宰治 「秋風記」
・・・に対する感覚は日に日に麻痺して行きそうである。 百千年の後に軽率な史家が春秋の筆法を真似て、東京市民をニヒリストの思想に導いた責任者の一つとして電気局を数えるような事が全くないとは限らないような気もする。 十幾年前にフィンランドの都・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・演劇的映画などは一日一日に古くなっても、ニュース映画は日に日に新たに、永久に若き生命を保つであろうと思われる。そういう将来における新聞はもはや社会欄なるものの大部分を喪失しているか、さもなければ、ほんとうの意味での「記事」となって、真に正確・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
震災の後上野の公園も日に日に旧観を改めつつある。まず山王台東側の崖に繁っていた樹木の悉く焼き払われた後、崖も亦その麓をめぐる道路の取ひろげに削り去られ、セメントを以て固められたので、広小路のこなたから眺望する時、公園入口の・・・ 永井荷風 「上野」
・・・ しかし日に日に経験する異様なる感激は、やがて朧ながらにも、海外の風物とその色彩とから呼起されていることを知るようになった。支那人の生活には強烈なる色彩の美がある。街を歩いている支那の商人や、一輪車に乗って行く支那婦人の服装。辻々に立っ・・・ 永井荷風 「十九の秋」
出典:青空文庫