・・・ 青少年の悪化が問題になり、その角度から十代が注目され、文相天野貞祐は、日の丸をかかげること、君が代を唱うこと、修身を復活させようとしている。そして、日本の全人民が、いかなるものに対して犯罪をおかそうとしていると不安なのか、全住民の指紋・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・けれども、一つ町内でそういう風に戦時景気に便乗していくらかでも甘い目を見た家の数と、毎日毎日、日の丸をふって働き手を戦争へ送り出し、そのために日々の生計が不安になっていった家の数をくらべて見たらどうだったろう。どんな町でも村でも、目立って景・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・ 重吉が網走からもってかえって来た人絹の古い風呂敷包みの中には、日の丸のついた石鹸バコ、ライオンはみがきの紙袋、よれよれになった鉄道地図、そして、一まとめに大事にくくった書類が入っていた。その束の中に、一通の電報があった。デタラスグカエ・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・そういう日には、黒い学校の門の左右の柱に、必ず大きい日の丸の旗が飾られるのであった。 表玄関を子供たちが出入りするということはなかった。女の児の入口は、左手の、受付と書いてはあるがいつも閉っている小さいガラス戸の横についていて、そこは先・・・ 宮本百合子 「藤棚」
・・・竹内市兵衛の子吉兵衛は小西行長に仕えて、紀伊国太田の城を水攻めにしたときの功で、豊臣太閤に白練に朱の日の丸の陣羽織をもらった。朝鮮征伐のときには小西家の人質として、李王宮に三年押し籠められていた。小西家が滅びてから、加藤清正に千石で召し出さ・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫