・・・ やがては霜になろうとする霧が、泥絵具の茶と緑を混ぜて刷いたような山並みに淡く漂って、篩いかけたような細かい日差しが向うにポツネンと立っている角子の大木に絡みつき、茶色に大きい実は、莢のうちで乾いた種子をカラカラ、カラカラと風が渡る毎に・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・一体に秋の中頃の黄色っぽい日差しで四方には何の声もしない。幕が上ると中央から少し下手によった所に置いてある腰掛にたった一人第一の女が何をするともなしにつたの赤く光るのを見て居る。かなり富んだらしい顔つきをして大変に目の大きい女。・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・庭石が、コンベンショナルな日本の庭らしい趣で据えられ、手洗台の石の下には、白と黒とぶちの大きな猫が、斜な日差しを受けて、踞って居る。 乱暴に乱されては居ても、些か風情のある庭の作りが、我々の注意をひかずには居なかった。片町の家には只空地・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・ 六畳の縁に向いた部屋に暫く机を置いて居た泰子は、春の日差しが暖く強く成るにつれて、眩しさを感じて仕方が無く成った。 檜の植込みや、若々しい新葉の出た樫の木位では、午後二時頃から射す、きららかな日を防げなかった。 机に向って居る・・・ 宮本百合子 「われらの家」
出典:青空文庫