・・・ 日数が経つと、そんな感情の病的に弱々しい部分は消えた。私は再び自分の健康も生も遠慮なく味い出した。私はやはり日向で、一寸したことに喜んで、高い声をあげてはあはあと笑う。 祖母は、水に棲む貝で例えれば蜆のような人であった。若し蜆が真・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・旅 そうそう、私はこれから段々みがきのかかった手足でまだどの位の日数を歩いたら行きつくか分らない、行かなければならないところへまで毎日毎日歩かなければならないんですよ。 今日までのうちに私はどっさりいろいろのものを見ました。 森・・・ 宮本百合子 「旅人(一幕)」
・・・――その望みが協って、此程、僅かな日数ではあったが、其処に滞在して、一種の渇望を満たすことが出来たのは、此上ない幸福でありました。 元来、旅行好きな私は、いま迄、随分色々な処を訪れて見ましたが大抵は失望しました。いつも私の想像したツマリ・・・ 宮本百合子 「「奈良」に遊びて」
・・・ 人員 二三百人 ダイナマイトのきかない岩は何? 日数 二月位。 ○崖中から水がたれて居る。 ○岩の間に菫の小さい葉がしげり出して居る。 ○桑の尺とり虫が出始め、道ばたに青草がしげり出し、くもが這いまわる。・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
・・・―― わたしたち姉弟が、紺絣の筒袖に小倉の小さい袴をはいた男の児と、リボンをお下げの前髪に結んでメリンスの元禄袖の被布をきた少女で、誠之に通っていたころ、学校はどこもかしこも木造で、毎日数百の子供たちの麻裏草履でかけまわられる廊下も階段・・・ 宮本百合子 「藤棚」
・・・ 総選挙、その後の政府のやりかた、メーデーと、私たちは短い日数のうちに、実は少なからぬことを学んだ。真の民主日本を建設する者は、平和と勤労とを愛する正直な人民は、心からメーデーの歌がうたえる者でしかないことを感じなかった者は、一人もなか・・・ 宮本百合子 「メーデーに歌う」
・・・ 木賃宿の主人が迷惑がるのを、文吉が宥め賺して、病人を介抱しているうちに、病附の急劇であったわりに、九郎右衛門の強い体は少い日数で病気に打ち勝った。 九郎右衛門の恢復したのを、文吉は喜んだが、ここに今一つの心配が出来た。それは不・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫