・・・そして佐伯はいわばその古障子の破れ穴とでもいうべきうらぶれた日日を送っていたのである。 佐伯が死んだという噂が東京の本郷あたりで一再ならず立ち、それが大阪にいる私の耳にまで伝わってきたのは、その頃のことだ。本当に死んでしまったのかとその・・・ 織田作之助 「道」
・・・ ところが、去年の秋、俗に赤新聞とよばれている大阪日日新聞の音楽コンクールで、彼の三人の弟子たちが三人とも殆ど最高点に近い成績を取った。「それ見ろ」 と庄之助は呟いた。「――世間の教師らはヴァイオリンの教授を坊ちゃん嬢ちゃん・・・ 織田作之助 「道なき道」
・・・私はあの人や、弟子たちのパンのお世話を申し、日日の飢渇から救ってあげているのに、どうして私を、あんなに意地悪く軽蔑するのでしょう。お聞き下さい。六日まえのことでした。あの人はベタニヤのシモンの家で食事をなさっていたとき、あの村のマルタ奴の妹・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・僕の記憶する所では、新聞紙には、二六、国民、毎夕、中央、東京日日の諸紙毒筆を振うこと最甚しく、雑誌にはササメキと呼ぶもの、及び文芸春秋と称するもの抔があった。是等都下の新聞紙及び雑誌類の僕に対する攻撃の文によって、僕はいい年をしながらカッフ・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・翌日日が出ると四階から天降ってまた働き始める。息をセッセとはずまして――彼は喘息持である――はたから見るのも気の毒なくらいだ。さりながら彼は毫も自分に対して気の毒な感じを持っておらぬ。Aの字かBの字か見当のつかぬ彼は少しも不自由らしい様子が・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・「センダート日日新聞だ。」「それは間違いです。アンモニアの効くことは県の衛生課長も声明しています。」「あてにならん。」「そうですか。とにかく、だいぶ腫れて参ったようです。」 親方のアーティストは、少ししゃくにさわったと見・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・私が『日日』にかいた随筆のことをいっていたのです。さっきその原稿料が来た。短いもの故わずかではあるが、ないには増しです。 あなたの召物や何か、これからは本のようになるたけお送りします。いろんな意味で流行っている本もお目にかけますから、ど・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 話はすこし飛んで、東京日日新聞でこの頃毎日東京ハイキングという特別読物を連載している。社会欄にさしはさまれて、今日などは島崎藤村が昔ながら住う飯倉の街を漫歩して、魚やの××君などと撮した写真をのせている。それぞれに写真にも工夫があって・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・「日日に林房雄が実業家のことを書いているんですね、一寸金がいるどの位だ、五万円までなら出すって云っているんで、こんなひともいるのかなアと思いましたよ」 聞いている方 それが本当の話だと思い だが、林がと変に思い・・・ 宮本百合子 「SISIDO」
・・・ 新聞 新聞は今、『時事』と『日日』と『報知』と、それに芝居のことを知りたいために『都』と、都合四つとっております。それらの紙面で先ず目をつけるのは社会欄です。社会記事から創作の材料を得たことは一度もありません・・・ 宮本百合子 「身辺打明けの記」
出典:青空文庫