・・・が、彼の楽しみにしていた東京へ出かける日曜日はもうあしたに迫っている。彼はあしたは長谷や大友と晩飯を共にするつもりだった。こちらにないスコットの油画具やカンヴァスも仕入れるつもりだった。フロイライン・メルレンドルフの演奏会へも顔を出すつもり・・・ 芥川竜之介 「十円札」
・・・子供のことには好く心を懸けられる性質で、日曜日には子供がめいめいの友達を伴れ込んで来るので、まるで日曜幼稚園のようだと笑っていられた。 作から見れば夏目さんはさぞかし西洋趣味の人だったろうと想像する人もあるようだが、私の観たところでは全・・・ 内田魯庵 「温情の裕かな夏目さん」
・・・ 翌日は、日曜日でした。朝飯を食べると、正ちゃんは、外へ駆け出してゆきました。往来で、徳ちゃんたちが、遊んでいました。徳ちゃんは、政ちゃんと同じ年ごろでした。「徳ちゃん、ペスが帰ってきたって、ほんとうかい。」 正ちゃんは、徳ちゃ・・・ 小川未明 「ペスをさがしに」
・・・村の子供らは、ちょうど日曜日であったから、みなうちつれ合って、歌いながら雪の野原を越えて、はるかかなたに海の見える方までやってきたのでした。すると、かなたには灰色の海が物悲しく見えて、その沖の方は暗くものすごかったのでありました。「ああ・・・ 小川未明 「雪の国と太郎」
・・・ たしかに午前六時の朝日会館など、まるで日曜日の教室――いや、それ以上に、ひっそりとして、味気なくて、殺風景でいたずらにがらんとして、凡そ無意味な風景であろう。 しかし、午前六時の朝日会館を描くことは、つねに無意味だとは限らない。・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・ ところが、次の日曜日、安子とお仙と一緒に銭湯へ行っていると、板一つへだてた男湯から水を飛ばした者がいる。「誰さ。いたずらおよしよ」 安子が男湯に向って呶鳴ると、「てやがんでえ。文句があるなら男湯へ来い、あははは……。女がい・・・ 織田作之助 「妖婦」
・・・ 自分は朝起きて、日曜日のことゆえ朝食も急がず、小児を抱て庭に出で、其処らをぶらぶら散歩しながら考えた、帯の事を自分から言い出して止めようかと。 然し止めてみたところで別に金の工面の出来るでもなし、さりとて断然母に謝絶することは妻の・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・初めは二人で押しかけて参りましたが後には日曜日など、藤吉のいない時は昼間でも一人で遊びに来て、一人でしゃべって帰ってゆくようになったのでございます。私も後には藤吉の家に出掛けて夜の十二時までもくだらん話をして遊ぶようになりました。お俊はしき・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・然し大庭真蔵は慣れたもので、長靴を穿いて厚い外套を着て平気で通勤していたが、最初の日曜日は空青々と晴れ、日が煌々と輝やいて、そよ吹く風もなく、小春日和が又立返ったようなので、真蔵とお清は留守居番、老母と細君は礼ちゃんとお徳を連て下町に買物に・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・ 外は、砂のような雪が斜にさら/\とんでいた。日曜日に働かなければならない不服を、のどの奥へ呑み下して、看護卒は、営内靴で廊下や病室をがた/\とびまわった。「さあ、乗れ、乗れ!」護送に行く看護長が廊下から叫ぶと、防寒服で丸くなった傷・・・ 黒島伝治 「氷河」
出典:青空文庫