・・・自由性とは、Freiheit の訳です。日本語では、自由という言葉は、はじめ政治的の意味に使われたのだそうですから、Freiheit の本来の意味と、しっくり合わないかも知れない。Freiheit とは、とらわれない、拘束されない、素朴のも・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・水仕事をしたり、煙草をふかしたり、日本語で怒ったり、そんな女だ。少女の朗読がおわり、教師のだみ声が聞えはじめた。信頼は美徳であると思う。アレキサンドル大王はこの美徳をもっていたがために、一命をまっとうしたようであります。みなさん。少年は、ま・・・ 太宰治 「逆行」
・・・小さなブーメラング形の翼の胚芽の代わりにもう日本語で羽根と名のつけられる程度のものが発生している。しかしまだ雌雄の区別が素人目にはどうも判然としない。よく見るとしっぽに近い背面の羽色に濃い黒みがかった縞の見えるのが雄らしく思われるだけである・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・などというような種類のものであったが、あまり発音が変っているから、はじめは日本語だとは気が付かないくらいであった。何だか聞きとれない言葉が出て来たので帳面を見せてもらうと‘fitots’‘stats’と書いてある。「一つ」「二つ」という数の・・・ 寺田寅彦 「異郷」
・・・「どうして日本に戻ってきたの?」「日本語を勉強するためにさ」「ヘェ、じゃハワイでは何語を教わっていたんだい」「英語さ」 私はますますおどろいた。「じゃ、英語よめるんだネ」「ああ、話すことだってできるよ」 私は・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・それと同じ理由から、わたくしは日本語に翻訳せられた西洋の戯曲と、殊に歌謡の演出に対して感興を催すことの甚困難であることを悲しむものである。 帝国劇場のオペラは斯くの如くして震災後に到っては年々定期の演奏をなすようになった。最初の興行より・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・日本は永久自分の住む処、日本語は永久自分の感情を自由にいい現してくれるものだと信じて疑わなかった。 自分は今、髯をはやし、洋服を着ている。電気鉄道に乗って、鉄で出来た永代橋を渡るのだ。時代の激変をどうして感ぜずにいられよう。 夕陽は・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・そればかりではない、先生は単にこの著作を完成するために、日本語と漢字の研究まで積まれたのである。山県君は先生の技倆を疑って、六ずかしい漢字を先生に書かして見たら、旨くはないが、劃だけは間違なく立派に書いたといって感心していた。これらの準備か・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
・・・ギリシャ語は哲学に適し、ラティン語は法律に適するといわれる。日本語は何に適するか。私はなおかかる問題について考えて見たことはないが、一例をいえば、俳句という如きものは、とても外国語には訳のできないものではないかと思う。それは日本語によっての・・・ 西田幾多郎 「国語の自在性」
・・・五十韻は学問なり。いろはは智見なり。五十韻は日本語を活用する文法の基にして、いろははただ言葉の符牒のみ。 この符牒をさえ心得れば、たといむつかしき文法は知らずとも、日用の便利を達するに差支えはなかるべし。文法の学問、はなはだ大切なりとい・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
出典:青空文庫