・・・かつて唇を三回盗まれたことがあり、体のことがなかったのは、たんに機会の問題だったと今さら口惜しがっている新ちゃんの肚の中などわからぬお君は、そんな詰問は腑に落ちかねたが、さすがに日焼けした顔に泛んでいるしょんぼりした表情を見ては、哀れを催し・・・ 織田作之助 「雨」
・・・雨が眼にはいって、眼がかすんでいたが、それでも日焼けしたSの顔ははっきりと見えた。Sは銃につけ剣して、いかめしく身構えて、つまり見張りの役をしていたのだ。ほかの兵隊達は皆見送人と、あちこちに集いながら団欒しているので、自分がその見張りの役を・・・ 織田作之助 「面会」
・・・お嫁さんを迎えに、はるばる北京からやって来たのだ。日焼けした精悍な顔になっていた。生活の苦労にもまれて来た顔である。それは仕方の無い事だ。誰だって、いつまでも上品な坊ちゃんではおられない。頭髪は、以前より少し濃くなったくらいであった。瀬川先・・・ 太宰治 「佳日」
・・・少し日焼けして、仲々おしゃれであるが、下品である。 アンドレア・デル・サルト。その名前を、そっと胸のうちで誦してみて、笠井さんは、どぎまぎした。何も、浮んで来ないのだ。忘れている。いつか、いつだったか、その名を、仲間と共に一晩言って、な・・・ 太宰治 「八十八夜」
出典:青空文庫