・・・この寺の先々住の日照というが椿岳の岳母榎本氏の出であったので、俗縁の関係上、明治十七、八年ごろ本堂が落成した時、椿岳は頼まれて本堂の格天井の画を描いた。 椿岳はこの依頼を受けると殆んど毎日東京の諸寺を駈巡って格天井の蟠龍を見て歩いた。い・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・地上の熱度漸く下降し草木漸く萠生し那辺箇辺の流潦中若干原素の偶然相抱合して蠢々然たる肉塊を造出し、日照し風乾かし耳目啓き手足動きて茲に乃ち人類なる者の初て成立せし以来、我日本の帝室は常に現在して一回も跡を斂めたることなし。我日本の帝室は開闢・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・そうして球技場の眩しい日照の下に、人知れず悩む思いを秘めた白衣のヒロインの姿が描出されるのである。 つまらない事ではあるが、拘留された俘虜達が脱走を企てて地下に隧道を掘っている場面がある、あの掘り出した多量な土を人目にふれずに一体どこへ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
昼間陸地の表面に近い気層が日照のためにあたためられて膨張すると、地上一定の高さにおいては、従来のその高さ以下にあった空気がその水準の上側にはみ出して来るから、従ってそこの気圧が高くなる。すなわち同じ高さの海上の気層に比べて・・・ 寺田寅彦 「海陸風と夕なぎ」
・・・しかし実際の事がらは決してこのように簡単ではなくて、人々の感覚は気温と共存する湿度、気圧風速日照等によるのみならず、人々のその瞬間以前におけるありとあらゆる物理的生理的心理的経験の総合された無限に多元的な複合の無限な変化によって、無限に多様・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・もしかすると、この強い日照と濃い濃霧との交錯によって神経が鍛練されるせいもいくらかはあるのではないかという気がした。信州と云っても国が広いから一概には云われないであろうが、ただちょっとそんな気がしたのであった。 宿の本館に基督教信者・・・ 寺田寅彦 「高原」
・・・ いちばん安全な方法はやはり野外でたくさんの観測を繰り返し、おのおのの場合の風向風速、太陽の高度方位、日照の強度、その他あらゆる気象要素を観測記録し、それに各場合の地形的環境も参考した上で、統計的分析法を使用して、各要素固有の効果を抽出・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・稲の正当な発育には一定量の日照並びに気温の積分的作用が必要であって、これが不足すれば必ず凶作が来る。それで年の豊凶を予察するには結局その年の七、八月における気温や日照の積分額を年の初めに予知することが出来れば少なくも大体の見当はつくというこ・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・それが、日照とか夜間放熱とか気温とか風当たりとかそういう単なる気象的条件の差異によってこれらの遅速を説明しようと思っても、なかなか簡単には説明されそうもないような結果であった。また根の周囲の土壌の質や水分供給の差異によるとも思われなかった。・・・ 寺田寅彦 「破片」
出典:青空文庫