・・・小説の中で、彼は、旧来の義理人情というものが自然であるべき人間相互の関係を歪め、そこから生じた不調和や偽善に対して、人間的な、自覚をもつ我、及び自然的人間情緒が捲き起さざるを得ない軋轢と相剋とを描き得た。「それから」「門」「彼岸過迄」等、い・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・ アンネットとジュネヴィエヴとの間には、共通なものと全く別のものとがある。旧来の結婚の形式が偽善と心ならぬ犠牲、真実の愛の感情さえ殺すような重しを女にかけることに抗議する心持の上で、この二人は全く同腹の姉妹である。けれども年上であり、成・・・ 宮本百合子 「未開の花」
・・・漱石は、結婚が女を人間的に低め、そのために男も苦しみ、相互の悲劇であることを見ながら、やはり、結婚や家庭の日暮しというものの旧来のしきたりに対しては反抗しきっていない。女が結婚するとわるくなるという例から見て、何が女の人間性を結婚において害・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
国文学というものは、云わばこれから本当の生きた研究がされるのではないだろうか。旧来の国文学は専門家の間にどこまでも鑑賞、故実穿鑿の態度で持ち来されていて、推移する文化の科学的な足どりとは自身の研究の方法を一致させていなかっ・・・ 宮本百合子 「若い世代のための日本古典研究」
・・・大迫さんが、結婚の対手が石部金吉では窮屈だ、若いころの恋愛ならいくらあったって少しも縁談にさしつかえない、ただそのひとの純粋さえ失わなければそれでいいと思う、といい切っていることは、今日の娘がどんなに旧来の嫁、妻という境遇の束縛から自由にな・・・ 宮本百合子 「若い婦人の著書二つ」
・・・ 白樺派を主とする人道主義の人々は、出生した環境、階級の関係から、旧来の男尊女卑に反撥して、男と女との結合につよく人間性を求めた。殿様の切りすて御免風な女に対する関係を否定したのであった。恋愛において、結婚生活において、形式から縛られた・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・ 新興武士階級も武力をもって権力を握ろうとする点において旧来の武士階級と異なったものではないが、しかし応仁以前の伝統的な武家とは一つの点においてはっきりと違うのである。それは旧来の武家が伝統の上に立っていたのに対して、新しい武家が実力の・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・そうして旧来の自然科学的文化の代わりに理想主義的文化が、利己主義的国家の代わりに世界主義的国家が、力強く育ち始めるのである。 低級な戦争目的が世界的問題となるようなことは、その時にはもう起こらない。新しい世界人の関心事は人生の目的である・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫