・・・井侯薨去当時、故侯の欧化政策は滑稽の思出草となったが、あらゆる旧物を破壊して根底から新文明を創造しようとした井侯の徹底的政策の小気味よさは事毎に八方へ気兼して※咀逡巡する今の政治家には見られない。例えば先祖から持ち伝えた山を拓いて新らしい果・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・あるいはこの諸件を擯斥するに非ず、口にこれを称し、事にこれを行うといえども、その心事の模範、旧物を脱却すること能わざる者なり。 これを方今、我が国内にある上下二流の党派という。一は改進の党なり、一は守旧の党なり。余輩ここに上下の字を用ゆ・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・ この際にあたりて、ひとり我が義塾同社の士、固く旧物を守りて志業を変ぜず、その好むところの書を読み、その尊ぶところの道を修め、日夜ここに講究し、起居常時に異なることなし。もって悠然、世と相おりて、遠近内外の新聞の如きもこれを聞くを好まず・・・ 福沢諭吉 「中元祝酒の記」
・・・はおのおのその藩主の名をもってしたりといえども、事成るの後にいたり、藩主は革命の名利にあずかるを得ずして、功名利禄は藩士族の流に帰し、ついで廃藩の大挙にあえば、藩主は得るところなきのみならず、かえって旧物を失うて、まったく落路の人たるが如し・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
出典:青空文庫