・・・街道の景色、また格別でございまして、今は駅路の鈴の音こそ聞えませぬが、馬、車、処の人々、本願寺詣の行者の類、これに豆腐屋、魚屋、郵便配達などが交って往来引きも切らず、「早稲の香や別け入る右は有磯海」という芭蕉の句も、この辺という名代の荒海、・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・「うん早稲だからだよ」「わせってなにお父さん」「早稲というのは早く穂の出る稲のことです」「あァちゃんおりてみようか」「いけないよ、家へ行ってからでも見にこられるからあとにしなさい」「ふたりで見にきようねィ、あァちゃん・・・ 伊藤左千夫 「紅黄録」
・・・ 早生の節成胡瓜は、六七枚の葉が出る頃から結顆しはじめるが、ある程度実をならせると、まるでその使命をはたしてしまったかのように、さっさと凋落して行ってしまう。私は、若くて完成して、そして速かに世を去って行った何人かの作家たちと、この桃や・・・ 黒島伝治 「短命長命」
出典:青空文庫