・・・そして、息をのむ大洪水の瞬下に此あわれに 早老な女の心を溺れ死なせ。波頭に 白く まろく、また果かなく少女時代の夢のように泡立つ泡沫は新たに甦る私の前歯とはならないか。打ちよせ 打ち返し轟く永遠の動きは鈍痲し易い・・・ 宮本百合子 「海辺小曲(一九二三年二月――)」
・・・ 都会の遽しさや早老を厭わしく思った時、藤村は心に山を描いた。幼心に髣髴とした山々を。故郷の山を。明治三十二年から三十三年までの一年に編まれた『落梅集』は、実に明らかにこの詩人が、歩み進んで来た成長の道、生活の路を語っている。『若菜・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・ 特に日本は若く而も早老な社会機構によって、ジャーナリズム内の理想主義と実利主義との紛糾は、呼吸荒い時代に揉まれて様々な内容がその日暮しに陥り達見を失う危険をもっていないとは云えない。 先頃、二晩つづいて東京に提灯行列のあった一夜、・・・ 宮本百合子 「微妙な人間的交錯」
・・・富裕なるロンドン市が世界に誇る、英国の暮し向よき中流層を拡大させつつ東端には一時的ならぬ貧を二代三代とかさねさせているうちに、この逆三角の顔を持ち七歳ですでに早老的声変りをした異様な小人間がおし出されて来たのである。 並木路のまんなかを・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫