・・・それでもおれは命が惜しくて生きているのではない、おれをどれほど悪く思う人でも、命を惜しむ男だとはまさかに言うことが出来まい、たった今でも死んでよいのなら死んでみせると思うので、昂然と項をそらして詰所へ出て、昂然と項をそらして詰所から引いてい・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ エルリングは昂然として戸口を出て行くので、己も附いて出た。戸の外で己は握手して覚えず丁寧に礼をした。 暫くしてから海面の薄明りの中で己はエルリングの頭が浮び出てまた沈んだのを見た。海水は鈍い銀色の光を放っている。 己は帰って寝・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫