・・・少年時代に上記のごときおとぎ文学や小説戯曲に読みふけっているかたわらで、昆虫の標本を集めたり植物しょくぶつさくようを作ったり、ビールびんで水素を発生させ「歌う炎」を作ろうとして誤って爆発させたり、幻燈器械や電池を作りそこなったりしていたので・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 戦争のないうちは吾々は文明人であるが、戦争が始まるとたちまちにして吾々は野蛮人になり、獣になり鳥になり魚になり、また昆虫になるのである。機械文明が発達するほど一層そうなるから妙である。それで吾々はこれらの動物を師匠にする必要が起って来・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・ 戦争のないうちはわれわれは文明人であるが戦争が始まると、たちまちにしてわれわれは野蛮人になり、獣になり鳥になり魚になりまた昆虫になるのである。機械文明が発達するほどいっそうそうなるから妙である。それでわれわれはこれらの動物を師匠にする・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・蟻のような人間、昆虫のような自動車が生命の営みにせわしそうである。 高い建物の出現するのははなはだ突然である。打ち出の小槌かアラディンのランプの魔法の力で思いもよらぬ所にひょいひょいと大きなビルディングが突然現われる。建物は実は長い間に・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・しかし、結局人間でも昆虫でも植物でも、そうして死ぬることによって自分の生命を未来に延長させているのである。 ヴェランダの上にのせた花瓶代用の小甕に「ぎぼし」の花を生けておいた。そのそばで新聞を読んでいると大きな虻が一匹飛んで来てこの花の・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・ 今年は研究所で買ったばかりの双眼顕微鏡を提げて来て少しばかり植物や昆虫の世界へ這入り込んで見物することにした。着くとすぐ手近なベランダの檜葉を摘んで二十倍で覗いてみた。まるで翡翠か青玉で彫刻した連珠形の玉鉾とでも云ったような実に美しい・・・ 寺田寅彦 「高原」
・・・アマチュア昆虫生態学者にとっては好個のテーマになりはしないかという気がしたのであった。 とんぼがいかにして風の方向を知覚し、いかにしてそれに対して一定の姿勢をとるかということがまた単に生物学者生理学者のみならず、物理学者工学者にまでもい・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・しかしあらゆる現代科学の極致を尽くした器械でも、人間はおろか動物や昆虫の感官に備えられた機構に比べては、まるで話にもならない粗末千万なものであるからおかしいのである。これほど精巧な生来持ち合わせの感官を捨ててしまうのは、惜しいような気がする・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・こおろぎや蜘蛛や蟻やその他名も知らない昆虫の繁華な都が、虫の目から見たら天を摩するような緑色の尖塔の林の下に発展していた。 この動植物の新世代の活動している舞台は、また人間の新世代に対しても無尽蔵な驚異と歓喜の材料を提供した。子供らはよ・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・あんまりお調子づいて、この論法一点張りで東西文明の比較論を進めて行くと、些細な特種の実例を上げる必要なくいわゆる Maison de Papierに住んで畳の上に夏は昆虫類と同棲する日本の生活全体が、何よりの雅致になってしまうからである。珍・・・ 永井荷風 「妾宅」
出典:青空文庫