・・・しかしいよいよ明朝は上の討手が阿部家へ来る。これは逆賊を征伐せられるお上の軍も同じことである。御沙汰には火の用心をせい、手出しをするなと言ってあるが、武士たるものがこの場合に懐手をして見ていられたものではない。情けは情け、義は義である。おれ・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・暮六つが鳴ると、神主が出て「残りの番号の方は明朝お出なさい」と云った。 次の日には未明に文吉が社へ往った。番号順は文吉より前なのに、まだ来ておらぬ人があったので、文吉は思ったより早く呼び出された。文吉が沙に額を埋めて拝みながら待っている・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・もう夜も遅いし、明朝は三時に起きるというのでその夜はあまり話もせずに寝た。 寝たと思うとすぐに起こされたような感じで、朝はひどく眠かったが、宿の前から小舟に乗って淀川を漕ぎ出すと、気持ちははっきりしてきた。朝と言ってもまだまっ暗で、淀川・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
出典:青空文庫