・・・別段、こだわるわけではありませんが、作州の津山から九里ばかり山奥へはいったところに向湯原村というところがありまして、そこにハンザキ大明神という神様を祀っている社があるそうです。ハンザキというのは山椒魚の方言のようなものでありまして、半分に引・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・加茂の明神がかく鳴かしめて、うき我れをいとど寒がらしめ玉うの神意かも知れぬ。 かくして太織の蒲団を離れたる余は、顫えつつ窓を開けば、依稀たる細雨は、濃かに糺の森を罩めて、糺の森はわが家を遶りて、わが家の寂然たる十二畳は、われを封じて、余・・・ 夏目漱石 「京に着ける夕」
・・・「春日明神さんの帯のようだな。」三郎が言いました。「何のようだど。」一郎がききました。「春日明神さんの帯のようだ。」「うな神さんの帯見だごとあるが。」「ぼく北海道で見たよ。」 みんなはなんのことだかわからずだまってし・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・和主などはまだ知りなさるまいが、それあすこのかたそぎ、のうあれが名に聞ゆる明神じゃ。その、また、北東には浜成たちの観世音があるが、ここからは草で見えぬわ」「浮評に聞える御社はあのことでおじゃるか。見れば太う小さなものじゃ」「あの傍じ・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・ 民間説話に題材を取ったらしい物語のなかで、最も目につくのは、伊予の三島明神の縁起物語『みしま』である。この明神はもと三島の郡の長者であった。四万の倉、五万人の侍、三千人の女房を持って、栄華をきわめていたが、不幸にして子がなかった。で、・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫