・・・ 下り終列車の笛が、星月夜の空に上った時、改札口を出た陳彩は、たった一人跡に残って、二つ折の鞄を抱えたまま、寂しい構内を眺めまわした。すると電燈の薄暗い壁側のベンチに坐っていた、背の高い背広の男が一人、太い籐の杖を引きずりながら、のその・・・ 芥川竜之介 「影」
・・・僕、曩日久保田君に「うすうすと曇りそめけり星月夜」の句を示す。傘雨宗匠善と称す。数日の後、僕前句を改めて「冷えびえと曇り立ちけり星月夜」と為す。傘雨宗匠頭を振って曰、「いけません。」然れども僕畢に後句を捨てず。久保田君亦畢に後句を取らず。僕・・・ 芥川竜之介 「久保田万太郎氏」
一 稲妻 晴れた夜、地平線上の空が光るのをいう。ドイツではこれを Wetterleuchten という。虚子の句に「一角に稲妻光る星月夜」とある。『説文』に曰く電は陰陽の激曜するな・・・ 寺田寅彦 「歳時記新註」
出典:青空文庫