・・・庭をいじって、話を書いて、芋がしらの水差しを玩んで――つまり前にも言ったように、日月星辰前にあり、室生犀星茲にありと魚眠洞の洞天に尻を据えている。僕は室生と親んだ後この点に最も感心したのみならずこの点に感心したことを少からず幸福に思っている・・・ 芥川竜之介 「出来上った人」
・・・地下の坑道にいて日月星辰は見えなくてもこれでいくぶんの見当はわかるであろう。質量と力の計測にも必ずしも秤はいらない。われわれの筋肉の緊張感覚がそれに役立つ。 これらの原始的なしかし驚嘆すべき計量単位の巧妙な系統によって、われわれの祖先は・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・日月星辰の運行昼夜の区別とかいうものが視覚の欠けた人間には到底時間の経過を感じさせる材料にはなるまい。それでも寒暑の往来によって昼夜季節の変化を知る事はある程度までできる。振り子のごとき週期的の運動に対する触感と自分の脈搏とを比較して振動の・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・日月星辰の運転、風雨雪霜の変化、火の熱きゆえん、氷の冷きゆえん、井を掘りて水の出ずるゆえん、火を焚きて飯の出来るゆえん、一々その働きを見てその源因を究むるの学にて、工夫発明、器械の用法等、皆これに基かざるものなし。元来、物を見てその理を知ら・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・なお進て、天文地質の論を聞けば、大空の茫々、日月星辰の運転に定則あるを知るべし。地皮の層々、幾千万年の天工に成りて、その物質の位置に順序の紊れざるを知るべし。歴史を読めば、中津藩もまたただ徳川時代三百藩の一のみ。徳川はただ日本一島の政権を執・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
出典:青空文庫