・・・だが、小作料のことから、田畑は昨秋、収穫をしたきりで耕されず、雑草が蔓るまゝに放任されていた。谷間には、稲の切株が黒くなって、そのまゝ残っていた。部落一帯の田畑は殆んど耕されていなかった。小作人は、皆な豚飼いに早替りしていた。 たゞ、小・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・容赦なく酷刑に処すべきである。昨秋、友人の遭難を聞いて、私の畜犬に対する日ごろの憎悪は、その極点に達した。青い焔が燃え上るほどの、思いつめたる憎悪である。 ことしの正月、山梨県、甲府のまちはずれに八畳、三畳、一畳という草庵を借り、こっそ・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・ 昨秋表慶館における伎楽面、舞楽面、能面等の展観を見られた方は、日本の面にいかに多くの傑作があるかを知っていられるであろう。自分の乏しい所見によれば、ギリシアの仮面はこれほど優れたものではない。それは単に王とか王妃とかの「役」を示すのみ・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
出典:青空文庫