・・・「実は、我が昵懇のものであるでの。」と云い出された。二人は大鐘を撞かれたほどに驚いた。それが虚言か真実かも分らぬが、これでは何様いう始末になるか全く知れぬので、又新に身内が火になり氷になった。男はそれを見て、「にッたり」を「にたにた・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・ならんかと思量致し、近来いささかこの道に就きて修練仕り申候ところ、卒然としてその奥義を察知するにいたり、このよろこびをわれ一人の胸底に秘するも益なく惜しき事に御座候えば、明後日午後二時を期して老生日頃昵懇の若き朋友二、三人を招待仕り、ささや・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・始め長谷川君の這入って来た姿を見たときは――また長谷川君が他の昵懇な社友とやあという言葉を交換する調子を聞いた時は――全く長谷川君だとは気がつかなかった。ただ重な社員の一人なんだろうと思った。余は若い時からいろいろ愚な事を想像する癖があるが・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
出典:青空文庫