・・・このようなところにも世の乱れとてぜひもなく、このころ軍があッたと見え、そこここには腐れた、見るも情ない死骸が数多く散ッているが、戦国の常習、それを葬ッてやる和尚もなく、ただところどころにばかり、退陣の時にでも積まれたかと見える死骸の塚が出来・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・最近遽に勃興したかの感ある新感覚派なるものの感覚に関しても、時にはまた多くの場合、此の狭小なる認識者がその狭小の故を以って、芸術上に於ける一つの有力な感覚なる賓辞に向って暴力的に突撃し敵対した。これは尤もなことである。さまで理解困難な現象で・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・私は近ごろ、「やっとわかった」という心持ちにしばしば襲われる。対象はたいていこれまで知り抜いたつもりでいた古なじみのことに過ぎない。しかしそれが突然新しい姿になって、活き活きと私に迫って来る。私は時にいくらかの誇張をもって、絶望的な眼を過去・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫