・・・学者の数々を聚めているのであるから、この際思い切って気象台の観測事業の範囲を徹底的に拡張して、そうして前述のごときあらゆる天災の根本的研究とその災害に対する科学的方策の綜合的考究に努力せしめるのが最も時宜に適したものではないかと思われる。そ・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・蕉門の付け合いには「時宜」ということを尊んだらしい。その当時の環境に自然な流行の姿をえらんだ句の点綴さるることを望んだのである。また作者自身の境界にない句を戒められたようである。しかしこういうことがないまでも、連句は時代の空気を呼吸する種々・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・こういう変異の各相の中に未来の好適種の可能性が存するとすれば、われわれはむしろこの際できる限りの型式のヴェリエーションを尽くして選良候補者のストックを豊富にして、それらを生存競争の闘技場に送り込むのも時宜に適するものではないか、ということで・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・をロシアの大衆に贈ったということは、全く、レーニンが簡単で含蓄のあるほめ言葉を与えた通り「時宜に適った」功績であった。 その作品がおよそ二十年後の当時にあってもなお一番青年に愛されているということは私の心を動かした。面白いことにこの「母・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
・・・お母あ様程には、秀麿の健康状態に就いて悲観していない父の子爵が、いつだったか食事の時息子を顧みて、「一肚皮時宜に合わずかな」と云って、意味ありげに笑った。秀麿は例の笑を顔に湛えて、「僕は不平家ではありません」と答えた。どうもお父う様はこっち・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫