・・・ 永瀬さんが益々詩想をすこやかにゆたかにして、時流の観念化に押しながされず、安易な象徴にかがまず「糸針抄」の精神の輝きをいよいよ増して製作されることを祈っている。〔一九四〇年十月〕 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・一人の作家が、時流におされて、或る程度日常生活を世俗的に膨脹させてしまうと、そのふくらんだ日暮しを、ころがしてゆくために、執筆は稼ぎとならざるを得ず、稼ぎともなれば、注文に敏感ならざるを得ない。 戦時中、日本の文学者たちが示したおどろく・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・フランス全国の同業者等は、この唐突に現れた資本も少ない若年の一出版業者が、疑なく時流に投じるであろう出版計画をもっていることを見極めると、共通な悪計によって結束した。一万フランの資本をかけて出版した本の売上げが、一年にやっと二十部という目に・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫