・・・私は三度も点呼を受けさせられ、そのたんびに竹槍突撃の猛訓練などがあり、暁天動員だの何だの、そのひまひまに小説を書いて発表すると、それが情報局に、にらまれているとかいうデマが飛んで、昭和十八年に「右大臣実朝」という三百枚の小説を発表したら、「・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・それにしても、ずっと昔私はどこかで僧心越の描いた墨絵の芙蓉の小軸を見た記憶がある。暁天の白露を帯びたこの花のほんとうの生きた姿が実に言葉どおり紙面に躍動していたのである。 ことしの二科会の洋画展覧会を見ても「天然」を描いた絵はほとんど見・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・それにしても、ずっと昔私はどこかで僧心越の描いた墨絵の芙蓉の小軸を見た記憶がある。暁天の白露を帯びたこの花の本当の生きた姿が実に言葉通り紙面に躍動していたのである。 今年の二科会の洋画展覧会を見ても「天然」を描いた絵はほとんど見付からな・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
出典:青空文庫