・・・は信じている。この本能が環境の不調和によって伸びきらない時、すなわちこの本能の欲求が物質的換算法によって取り扱われようとする時、そこにいわゆる社会問題なるものが生じてくるのだ。「共産党宣言」は暗黙の中にこの気持ちを十分に表現しているように見・・・ 有島武郎 「想片」
・・・ないものとして放棄し、とにかく話の筋が通って居れば、それで役所の書類作成に支障は無し、自分の勤めも大過無し、正義よりも真実よりも自分の職業の無事安泰が第一だと、そこは芸術家も検事も、世馴れた大人同士の暗黙の裏の了解ができて、そこで、「どちら・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・先輩としての利己主義を、暗黙のうちに正義に化す。」 私は、いやな気がした。こんどは、本心から、この少年に敵意を感じた。 第二回 決意したのである。この少年の傲慢無礼を、打擲してしまおうと決意した。そうと決意す・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・ これに反してもっとまじめで真剣なだけにいちばん罪の深い人間的な宣伝の場合と思われるのは、避くべからざる覊絆によって結ばれた集団の内部で、暗黙のうちに行なわれる、朋党の争いである。たとえば昔あったような姑と嫁の争いである。姑は「姑」を宣・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・の芸術でも、やはりいろいろのものを取り合わせ、付け合わせ、モンタージュを行なって、そうしてそこに新しい世界を創造するのであって、その芸術の技法には相生相剋の配合も、テーゼ、アンチテーゼの総合ももちろん暗黙の間に了解されているが、ただそれがな・・・ 寺田寅彦 「ラジオ・モンタージュ」
・・・私たちが、ものをいわされず、書かされないとき、ちょうど節穴から一筋の日光がさしこむようにチラリと洩らされる正義の情、抑圧への反抗は、いわば、人々の間に暗黙のうちに契約となったいくつかの暗号のようなものであった。義太夫ずきの爺さんが、すりへっ・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ 男の側から気持をそういう方向にもってゆく場合が目立ってとらえられていたというのも、云って見れば、暗黙のうちに女のひとの心の中に生じていた結婚に対する遅疑や逡巡が照りかえしたものとしての現れであると云えるところもあろう。時局に際しての女・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・いて起った長篇小説への要求、単行本発表への欲求の背景となった経済的な理由、発表場面狭隘の苦痛等と照らし合わせて観察すると、先ず横光氏によって叫ばれた純文学であって通俗小説であるという小説への転身宣言の暗黙のモメントとして、その市場を、これま・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・受身に私共の観賞を支配される形ではあるが、一都市が所有する美の蔵の公平な認識者、批評家として、趣味の浮浪人は暗黙の裡に重んぜられる当然の運命をもっている。何故なら、必要、不必要、自分に似合う似合わない、その他多くの購買者が必ず持つ私的条件を・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・会的な心理の傾向と綯い合され文学の現実追随への一条件となっているのであるが、今日顧みて興味あることは、当時改めて強調された教養を高めよの問題では、これまで作家の主観の中では頼られていた作家魂の衰退が、暗黙に告白されている点である。作家魂とい・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫