・・・当時の婦人はどんなに自分達の希望を殺して生きていたか、また殺させているという暗黙の恐怖が男たちの意識の底を流れていたかが解る。物狂いと云い、生霊、死霊と云い、そこでは普通でない人間に対する怖れがある。謡曲は僧侶の文学とされている。女のあわれ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・今日の若い人々が、自身の人生に恋愛を認めていると同時に、一面では多くの場合暗黙の裡に恋愛と結婚生活とを切りはなして考え、行動していることは、注目をひく点ではなかろうか。十人のうち何人かは、淡泊な微笑で自分たちの恋愛を認めるにちがいない。とこ・・・ 宮本百合子 「成長意慾としての恋愛」
・・・うっかりしたことを云っては愧しいと云う心持のある他方には、所謂先生に対して云えないことも云っても大丈夫と云う安心が暗黙のうちに在った。 熾んな求道慾と、人生の風情と云うものを、美しく調和させようとするところに、先生の人を導く的があったの・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
・・・ 皆の入ろうとする処が判ると、暗黙の競争が行われ始める。一日おき位に、放課後一時間か二時間いのこり、算術や国語の特別課業を受ける時も、一つの読み間違い、一つの式の立て違いが、何だか、みな遠い彼方で、入学試験の間違いと連絡していそうな気が・・・ 宮本百合子 「入学試験前後」
・・・主義に発達するテンポの早い歴史は、日本のインテリゲンチアに敏捷な適応性を賦与していると同時に、勤労大衆の日常生活をきわめて低い水準にとどめている封建的圧力そのものが、インテリゲンチアの精神にもきびしく暗黙の作用を及ぼしている。 中途半端・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・真面目な意図をもつ小説にどうにかして目新しさ、面白さの綾をつけようと、作者の努力をついに逸脱させるまで暗黙に刺戟しているものを、文学の大局から何と見るべきであろう。読者にとっても作者にとっても、新しくないのに未だ本当の解答は出ていない一つの・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・山本有三氏と読者との結びつきは、どこか只面白い小説という以上のものに対する暗黙の契約の上に立っているように見えるのである。そして、このことは、今日の社会に於ける一社会人としての山本氏に対する信用をも醸し出しているのである。 この間、志賀・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・その必要から、自分の娘たちの身辺を飾り宮廷社会の陰険な競争に対してよく備え暗黙の外交的影響と文化の力で、娘の勢力を確保するために才智の優れた、性格にも特色のある婦人達を官女として集め、宮中の人気を集注し、社交的なあらゆる場面で勝利を占めよう・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫