・・・――どうかして、座敷へ飛込んで戸惑いするのを掴えると、掌で暴れるから、このくらい、しみじみと雀の顔を見た事はない。ふっくりとも、ほっかりとも、細い毛へ一つずつ日光を吸込んで、おお、お前さんは飴で出来ているのではないかい、と言いたいほど、とろ・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・衣服はびしょぬれになる、これは大変だと思う矢先に、グイグイと強く糸を引く、上げると尺にも近い山の紫と紅の条のあるのが釣れるのでございます、暴れるやつをグイと握って籠に押し込む時は、水に住む魚までがこの雨に濡れて他の時よりも一倍鮮やかで新しい・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・先刻の有様では、如何なることかと案じたが、この神々に、満足の感情と、倦怠と、眠りのあるのは有難いことです。暴れる時は、天地の軸が歪みそうで、天帝の眉さえ顰む程だが、必ずあとに、休止と云うものが従っている。 私は始めもなければ終りもない・・・ 宮本百合子 「対話」
出典:青空文庫