・・・だからして記憶の最高度はもっとも明暸なる上層の意識で、その最低度はもっとも不明暸なる下層の意識に過ぎんのであります。 すると意識の連続は是非共記憶を含んでおらねばならず、記憶というと是非共時間を含んで来なければならなくなります。からして・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ということは、その時代の常識の最高の線についてだけ云われることではなく、むしろ、最低線について云われるべきことです。その最低線がどの程度まで歴史の客観的な前進に一致した認識と行動に向ってきているかということこそが、進歩のめやすです。だから、・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・そのうちで、戦闘員だったものは千五百万人、最低その三倍の非戦闘員が、空襲とナチスやファシストの強制収容所、地下の抗戦運動で殺害されている。日本の軍部は、太平洋戦争で百八十五万人を死なせた。全国には百八十万人の未亡人が飢餓線に生きている。千円・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・ 更に、この条項を眺めていると、私たちの心には、まざまざと先頃厚生大臣から発表された最低賃銀の規定が浮んで来る。男子三〇歳―五〇歳、四百五十円。女子一五〇円と。「人」といううちに、女子を含まないはずはない。人というなかに、三〇歳未満の青・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・マーシャル・プランの廃止、植民地住民の自治原則確立、日独に対する講和促進と占領軍の撤退、中国における民主的連立政権の樹立、タフト・ハートレー法の撤廃、非米委員会活動の廃止、基本産業の国有化と時給一ドル最低賃銀制の確立。ここには第一次大戦後の・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・故人の閲歴から見て、退職金は五十万円ぐらいで、自殺であるとそれっきりであるが、他殺であるなら殉職として、国鉄公社のしらべによると最低百万円をくだらないことになる。 故人は機械科出の技術者であった。そのポストが大整理という苦しい仕事に当面・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・ 工業・農業における社会生産を最低のレベルにおいてでもどうやら保ちつづけたのは勤労婦人の献身でした。一九四〇年以後の日本のすべての炭坑には婦人が入坑し、過重な労役に服してきました。若い勤労婦人は最も危険・有害なあらゆる生産部門においてさ・・・ 宮本百合子 「国際民婦連へのメッセージ」
・・・水道は最低九十三銭。だからいらないと裏の意見だそうです。尤もだと思い大多数の便宜に従います。 台所へ出てから、二階への梯子があり、二階も縁側があり、入ってすぐが六畳、奥が四畳半。六畳の方に山田のおばあちゃん[自注10]のくれた机をおいて・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・卒業式の日に姿をみせなかったそれらの子供たちは、みんなどこかに働かされていて、日本の有識者年齢の最低十一歳までに四万六千余人、十三歳までの年で稼いでいるものが四十三万ほどある。この稚い働きての中で十一歳までのものでは、女の児が男児の倍の数を・・・ 宮本百合子 「国民学校への過程」
・・・河合栄治郎が学者としての良心の最低線を守ろうとした抵抗の精神は、人事院規則に対する南原の線を守る人たちの抵抗でもある。 日本の平和擁護のための運動に対して傍観的であり、あるいは嘲弄的であるのは、福田恆存一人ではない。福田恆存がそこに加っ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
出典:青空文庫