・・・と浪花節と講談、猥談をこのむものとしてだけ見て、しかもそういう大衆の中には種々な社会層の相異があり、その相異から生じる利害の相異もまたあるという現実を見ない一部の人々は、文学の大衆化は大衆の文化水準の最低のところまで作家がさがってゆくことで・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・大衆の生活に入りこんでいる最低の文化水準としての講談本、或は作者の好む色どりと夥しい架空的な偶然と客観的でない社会性とによって、忠実の一面を抹殺され勝な大衆髷物小説から、読者にただそれが歴史上の事実であるばかりでなく、社会的現実の錯綜の観か・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・それは東京都民として最低の額であった。MRAのお客となることは、懐のいたまない、気分のいいことかもしれないが、そのかわり、それだけの恥もひそめられている――いや、今日では公然たる恥がある。 道徳再武装運動は、かつてオックスフォード運動と・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
・・・もしまた、適度の砂糖は人間の健康に必要なものであるから、というのならば、つい先頃まで砂糖の害だけを云いたてて、科学的に国民保健上最低の糖分の必要さえ示そうとしなかった政府と栄養専門家、医者たちの軍事的御用根性について、この際正直に反省してほ・・・ 宮本百合子 「砂糖・健忘症」
・・・そこに、最低の水準が次第に育ちのびようとする無視出来ない力がひそめられているのだと思われる。〔一九四一年九月〕 宮本百合子 「女性の書く本」
・・・そうであるならば最低限の生活の安定がその勤労によって保たれ、勤労人民としての社会保護が確保されなければならない。そのような全人民の社会的な生きかたの要求、その実現の努力とともに、民主文学の可能性も拡大されるのである。労働時間と賃金の問題は、・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・その結果一番うれる最低の安全性としてエロティシズムに陥っている。これは出版関係の専門家の解剖である。『星』や『レーニングラード』は営利雑誌ではない。先ごろ来朝していた作家シーモノフが、日本の出版界にもそれを衷心から希望したとおり、ソヴェ・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ このあいだ政府はインフレの物価騰貴につれて最低賃銀の基底を公表した。若い人々はあれをみて何を感じたであろうか。男子三十歳から五十歳が最低四百五十円といわれている。では二十八歳の青年、二十五歳の者、二十二歳の者、その人々の労働の報酬はど・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・ すべての人民は働く権利がある、ということが男女差別の扱いなく行われ、すべての働いて生きる者は必要な社会保険によって最低保障は与えられるということが実現しなければ、結婚という一つの場合だけでさえ当事者の「自由な意志」というものは、皮肉な・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・ 大衆といい、民衆といい、昨今は国民といい、極めて粗笨な全体主義でおおうたもののいいかたをし、而もその全体の水準を生活全面で最低まで押し下げておいて、全体という言葉の逆用によって、大衆とその一部としての知識人の進歩性を窒息させているのが・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
出典:青空文庫