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・・・其ノ単弁淡紅ニシテ彼岸桜ト称スル者最多シ。古又嘗テ吉野山ノ種ヲ移植スト云フ。毎歳立春ノ後五六旬ヲ開花ノ候トナス。」としてある。そして桜花満開の時の光景を叙しては、「若シ夫レ盛花爛漫ノ候ニハ則全山弥望スレバ恰是一団ノ紅雲ナリ。春風駘蕩、芳花繽・・・
永井荷風
「上野」
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・・・湖月に宴会があって行って見ると、紅葉君はじめ、硯友社の人達が、客の中で最多数を占めていた。床の間に梅と水仙の生けてある頃の寒い夜が、もうだいぶ更けていて、紅葉君は火鉢の傍へ、肱枕をして寐てしまった。尤も紅葉君は折々狸寐入をする人であったから・・・
森鴎外
「百物語」