・・・これはかねて世界最大の噴火口の旧跡と聞いていたがなるほど、九重嶺の高原が急に頽こんでいて数里にわたる絶壁がこの窪地の西を回っているのが眼下によく見える。男体山麓の噴火口は明媚幽邃の中禅寺湖と変わっているがこの大噴火口はいつしか五穀実る数千町・・・ 国木田独歩 「忘れえぬ人々」
・・・そればかりでなくミルや、シヂウィックや、英国経験学派の系統を引く功利主義の倫理学はほとんどことごとく「最大多数の最大幸福」を社会理想として実現せんとする、多かれ少なかれ、社会改良運動の実践と結びついたものであり、現実のイギリス社会に影響する・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・国土というものに対して活きた関心を持たぬのは、これまでのこの国の知識青年の最大の認識不足なのである。今や新しい転換がきつつある。 しかし日蓮の熱誠憂国の進言も幕府のいれるところとならず、何の沙汰もなかった。それのみか、これが機縁となって・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・そして彼等はロシア人だ!「人をぺてんにかけやがった! 畜生!」 彼等は、暫らく行くと、急に速力を早めた。そして最大の速力で、銃弾の射程距離外に出てしまった。 そこで、つるすことを禁じられていた鈴をポケットから出して馬につけ、のん・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・彼は、機関銃のつつさきを最大限度に空の方へねじ向けた。 弾丸は、坂を馳せ登ってくる百姓や、女の頭の上をとびぬけ出した。「撃てッ、パルチザンが逃げ出して来るじゃないか、撃てッ!」 包囲線を見張っている将校は呶鳴りたてた。 兵士・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・ 次に舜典に徴するに、舜は下流社會の人、孝によりて遂に帝位を讓られしが、その事蹟たるや、制度、政治、巡狩、祭祀等、苟も人君が治民に關して成すべき一切の事業は殆どすべて舜の事蹟に附加せられ、且人道中最大なる孝道は、舜の特性として傳へらるゝ・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・この男ひとりに限らず、芸術家というものは、その腹中に、どうしても死なぬ虫を一匹持っていて、最大の悲劇をも冷酷の眼で平気で観察しているものだ、と前回に於いても、前々回に於いても非難して来た筈でありますが、その非難をも、ちょっとついでに取り消し・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・しかも私はその五円でもって、つねに最大の効果を収めていたようである。私の貯めた粒粒の小金を、まず友人の五円紙幣と交換するのである。手の切れるほどあたらしい紙幣であれば、私の心はいっそう跳った。私はそれを無雑作らしくポケットにねじこみ、まちへ・・・ 太宰治 「逆行」
・・・これについては世界中の信用のある学者の最大多数が裏書をしている。仕事が科学上の事であるだけにその成果は極めて鮮明であり、従ってそれを仕遂げた人の科学者としてのえらさもまたそれだけはっきりしている。 レニンの仕事は科学でないだけに、その人・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・そして最小の仕事を費やして最大の効果を得るという原則に従った方がいい。卒業試験は正にこの原則に反するものである。」 それでは大学入学の資格はどうしてきめるかとの問に対して、「偶然に支配されるような火の試練でなく、一体の成績によればい・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
出典:青空文庫