ここに集められている宮本顕治の諸評論は、凡そ一九二九年頃から一九三二年三月頃まで、略三年間に書かれたものである。執筆された当時から今日までには僅か五年足らずの年月しか経ていないのであるが、その間には此等の諸論策の筆者自身の・・・ 宮本百合子 「『文芸評論』出版について」
・・・マクシム・ゴーリキイより三歳年下であったシャポワロフは、一八八一年の三月頃はまだペテルブルグの市立小学校へ通っていた。その日、教師はひどく亢奮してわけも話さずいつもより早く授業をすました。そして子供達を家へ追い帰した。街では巡査が恐ろしい顔・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・翁は四月頃に先ず死し、まだ百箇日の過ぎぬ間に、媼も踵いで死したそうである。わたくしは多少心を動さざることを得なかった。これを記している処へ、丁度宮崎虎之助さんの葉書が来た。「合掌礼拝。森君よ。ずっと向うに見えて居るのは何でしょう。あれは死で・・・ 森鴎外 「細木香以」
・・・外は色の白けた、なんということもない三月頃の野原である。谷間のように窪んだ所には、汚れた布団を敷いたように、雪が消え残っている。投げた烟草の一点の火が輪をかいて飛んで行くのを見送る目には、この外の景色が這入った。如何にも退屈な景色である。腰・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
出典:青空文庫