・・・将来も男の、…… 使 将来は男に有望です。女の太政大臣、女の検非違使、女の閻魔王、女の三十番神、――そういうものが出来るとすれば、男は少し助かるでしょう。第一に女は男狩りのほかにも、仕栄えのある仕事が出来ますから。第二に女の世の中は今の・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・私は自分の閲歴の上から、どうしても詩の将来を有望なものとは考えたくなかった。たまたまそれらの新運動にたずさわっている人々の作を、時おり手にする雑誌の上で読んでは、その詩の拙いことを心ひそかに喜んでいた。 散文の自由の国土! 何を書こうと・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・ 学生時代に汚れた快楽に習慣づけられた青年の行く先きは必ず有望なものでない。それは私の周囲に幾多の例証がある。社会的にも、人間的にも凡俗に堕ちて行っている。その原因は肉体的快楽を知ることによって、あまりに大人となり、学窓の勉強などが子ど・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・読書しない青年には有望な者はいない。天才はたとい課業の読書は几帳面でないまでも、図書館には籠って勉強するものである。 読書にとらわれる、とらわれないというのはそれ以上の高い立場からの要請であって、勉強して読書することだけにできない者にと・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ 大きな洋傘をさしかけて、坂の下の方から話し話しやって来たのは、子安、日下部の二人だった。塾の仲間は雨の中で一緒に成った。 有望な塾の生徒を、しかも十八歳で失ったということは、そこへ皆なの心を集めた。暮に兄の仕立屋へ障子張の手伝いに・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・貴下は、将来有望の士だと思います。だんだん作品も、よくなって行くように思います。どうか、もっと御本を読んで哲学的教養も身につけるようにして下さい。教養が不足だと、どうしても大小説家にはなれません。お苦しい事が起ったら、遠慮なくお手紙を下さい・・・ 太宰治 「恥」
・・・見込まれて狼狽閉口していながらも、杉浦君のような高潔な闘士に、「鶴見君は有望だ」と言われると、内心まんざらでないところもあったのである。何がどう有望なのか、勝治には、わけがわからなかったのであるが、とにかく、今の勝治を、まじめにほめてくれる・・・ 太宰治 「花火」
・・・「じゃ僕なんか有望なわけです。何をしても駄目です。」「君は、今まで何も失敗してやしないじゃないか。駄目だかどうだか、自分で実際やってみて転倒して傷ついて、それからでなければ言えない言葉だ。何もしないさきから、僕は駄目だときめてしまう・・・ 太宰治 「みみずく通信」
・・・ 五 すみれ娘 日本の近代映画でも、PCLの提供するものの中には色々な点で有望な進歩の動向を示しているものがあるように思う。この「すみれ娘」などもその一例である。あくどい蒼蠅さがわりに少なくて軽快な俳諧といったよう・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・ 前途有望なこの映画の監督にぜひひと通りの俳諧修行をすすめたいような気がしているのである。 十六 外人部隊 たいへんに前評判のあった映画であるが自分にはそれほどでなかった。言葉のよくわからないせいもあろうがいった・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
出典:青空文庫