・・・はいつもの饒舌癖がかえって大阪の有閑マダムがややこしく入り組んだ男女関係のいきさつを判らせようとして、こまごまだらだらと喋っているという効果を出しているし、大阪弁も女専の国文科を卒業した生粋の大阪の娘を二人まで助手に雇って、書いたものだけに・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・実際今日においては職業婦人は有閑婦人よりも、その生命の活々しさと、頭脳の鋭さと、女性美の魅力さえも獲得しつつあるのである。われわれの日常乗るバスの女車掌でさえも有閑婦人の持たない活々した、頭と手足の働きからこなされて出た、弾力と美しさをもっ・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・「これは弱った。有閑階級に対する鬱憤積怨というやつだ。なんとか事態をまるくおさめる工夫は無いものか。これは、どうも意外の風雲。」「ごまかしなさんな。見えすいていますよ。落ちついた振りをしていても、火燵の中の膝頭が、さっきからがくがく・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・ ケレドモ、所詮、有閑ノ文字、無用ノ長物タルコト保証スル、飽食暖衣ノアゲクノ果ニ咲イタ花、コノ花ビラハ煮テモ食エナイ、飛バナイ飛行機、走ラヌ名馬、毛並ミツヤツヤ、丸々フトリ、イツモ狸寝、傍ニハ一冊ノ参考書モナケレバ、辞書ノカゲサエナイヨ・・・ 太宰治 「走ラヌ名馬」
・・・ 連句はその末流の廃頽期に当たって当時のプチブルジョア的有閑階級の玩弄物となったために、そういうものとしてしか現代人の目には映らないことになった。しかし本来はそれどころか実に深刻な時代世相の端的描写であり、そうして支配階級よりはより多く・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・作者が重い比重で自分の存在にのしかかって来て、深い悲しみを与えられた人間のそういう気持を、資本主義社会の逆境で歪んで来た人間性においてとらえ作品化すことが出来ず、反対に、有閑の上流生活において腐敗させられてゆく人間の生活力として把えていると・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・結婚によって自分の職業もやめ、一躍有閑夫人めいた生活に入りたいという希望をもっている人が、今日のような浮動した社会事情の時はその夢を実現する可能が意外のところにあるのかもしれない。そういう人生の態度を認めている人たちは、周囲からの軽蔑を自分・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・都会の安逸な有閑者の生活に生じてくる恋愛中心の波瀾、それをめぐっての有閑者流な人情の葛藤の面白さにすぎない。勤労大衆の文学は、その内容も表現も勤労者の生活に即したものでなければならないという理解に立っていたのであった。 純文学はこの時代・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・きょうの宮さまとよばれる有閑な中年の男性たちが、あたりまえの一市民のようであって決してそうでないさかさ成金のスリルを愉しむのは、むしろあたりまえであろう。人間の笑いの中には一般人にとってあたり前のことが、どのようにあたりまえでなく行われるか・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・女のあわれな物語を、現代の闇商売で有閑的な生活に入った人々が唸っているのは、腹立たしく滑稽な絵図である。 徳川家康が戦国時代に終止符をうって江戸の永くものうい三百年がはじまった。この時代の婦人の立場は「女大学」というもの一つを取上げただ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
出典:青空文庫