・・・すべての有限な統計的材料に免れ難い偶然的の偏倚のために曲線は例のように不規則な脈動的な波を描いている。しかし不幸にして特に四十二歳の前後に跨がった著しい突起を見出すことは出来なかった。これだけから見ると少なくもその曲線の示す範囲内では、四十・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・ 実際われわれの感覚する生理的の時間は無限に小さな点の連続ではなくて、有限な拡がりをもった要素の連続だという事、それから、その有限な少時間内では時の前後が区別出来ないという学説は本当らしい。 このようにして生じた時間の前後の転倒は、・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
・・・普通のわれわれの音楽で使われる音程の数は有限な少数であるのに、実際これからあらゆる旋律、たとえば追分節も生まれればチゴイネルワイゼンも生まれる。ましてや連句の場合にこの音程に相当する付け味の数は言わば高次元の無限大である。これから見ても連句・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・しかも有限なる自己の内に無限なる神の観念の原因は求められない。また現在の自己の内に次の瞬間への自己の存続の原因は求められない。そこに創造的なるものが働かねばならない。かかる原因として我々は神の存在を認めねばならないという。しかし斯く考える時・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・塵よりいでて塵に返る有限の人の身に光明に充つる霊を宿し、肉と霊との円満なる調和を見る時羽なき二足獣は、威厳ある「人」に進化する。肉は袋であり霊は珠玉である。袋が水に投げらるる時は珠もともに沈まねばならぬ。されど袋が土に汚れ岩に破らるるとも珠・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫