・・・のみならず朋輩たちに、後指をさされはしないかと云う、懸念も満更ないではなかった。が、それにも増して堪え難かったのは、念友の求馬を唯一人甚太夫に託すと云う事であった。そこで彼は敵打の一行が熊本の城下を離れた夜、とうとう一封の書を家に遺して、彼・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
・・・ 彼は、彼の転換した方面へ会話が進行した結果、変心した故朋輩の代価で、彼等の忠義が益褒めそやされていると云う、新しい事実を発見した。そうして、それと共に、彼の胸底を吹いていた春風は、再び幾分の温もりを減却した。勿論彼が背盟の徒のために惜・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・お座敷着で、お銚子を持って、ほかの朋輩なみに乙につんとすましてさ。始は僕も人ちがいかと思ったが、側へ来たのを見ると、お徳にちがいない。もの云う度に、顋をしゃくる癖も、昔の通りだ。――僕は実際無常を感じてしまったね。あれでも君、元は志村の岡惚・・・ 芥川竜之介 「片恋」
・・・彼女はあの賑やかな家や朋輩たちの顔を思い出すと、遠い他国へ流れて来た彼女自身の便りなさが、一層心に沁みるような気がした。それからまた以前よりも、ますます肥って来た牧野の体が、不意に妙な憎悪の念を燃え立たせる事も時々あった。 牧野は始終愉・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
一 じゅりあの・吉助は、肥前国彼杵郡浦上村の産であった。早く父母に別れたので、幼少の時から、土地の乙名三郎治と云うものの下男になった。が、性来愚鈍な彼は、始終朋輩の弄り物にされて、牛馬同様な賤役に服さ・・・ 芥川竜之介 「じゅりあの・吉助」
・・・ ただやさしい形の葦となかのよくなった燕は帰ろうとはいたしません。朋輩がさそってもいさめても、まだ帰らないのだとだだをこねてとうとうひとりぽっちになってしまいました。そうなるとたよりにするものは形のいい一本の葦ばかりであります。ある時そ・・・ 有島武郎 「燕と王子」
・・・――小母さんは寺子屋時代から、小僧の父親とは手習傍輩で、そう毎々でもないが、時々は往来をする。何ぞの用で、小僧も使いに遣られて、煎餅も貰えば、小母さんの易をトる七星を刺繍した黒い幕を張った部屋も知っている、その往戻りから、フトこのかくれた小・・・ 泉鏡花 「絵本の春」
・・・、融通は利かず、寒くはなる、また暑くはなる、年紀は取る、手拭は染めねばならず、夜具の皮は買わねばならず、裏は天地で間に合っても、裲襠の色は変えねばならず、茶は切れる、時計は留る、小間物屋は朝から来る、朋輩は落籍のがある、内証では小児が死ぬ、・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・甲州にいた時、朋輩と一緒に五郎、十郎をやったの」「さぞこの尻が大きかっただろう、ね」うしろからぶつと、「よして頂戴よ、お茶を引く、わ」と、僕の手を払った。「お前が役者になる気なら、僕が十分周旋してやらア」「どこへ、本郷座? ・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・古参の丁稚でもそれと大差がないらしく、朋輩はその小遣いを後生大事に握って、一六の夜ごとに出る平野町の夜店で、一串二厘のドテ焼という豚のアブラ身の味噌煮きや、一つ五厘の野菜天婦羅を食べたりして、体に油をつけていましたが、私は新参だから夜店へも・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
出典:青空文庫