・・・ 踏切りのこっちへ来ると、一太の朋輩や、米屋の善どんなどがいた。一太一人で納豆籠をぶらくって通ると、誰かが、「一ちゃんおいで」と呼んだ。米屋の善どんは眉毛も着物も真白鼠で、働きながら、「今かえんのかい?」と訊いた。「・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・で手負いの侍女が、死にかかりながら、主君の最期を告げに来るのに、傍にいる朋輩が、体を支えてやろうともしないで、行儀よく手を重ねて見ているのも気がついた。何も、わざとらしい動作をするには及ばない。只、そういう非常な場合、人間なら当然人間同士感・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・ 一幕目で、朋輩の饒舌に仲間入りもせず、裏からお絹の舞台を一心に見ているところ、お絹が病気になってから、芝居の端にも、心は病床の主人にひかれている素振りが見え、真情に迫った。 ただ、一幕目で、お絹が舞台で倒れて担がれて来た時、無目的・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・間借りをして居る婆にもかりがあり酒屋朋輩等へのかえさなければならないはずのものは一寸男が今胸算よう出来ないほど少ない様な面をして居ていつのまにかかさんで居た。「けっとばして逃げればいいじゃねえか」 反向的な声で男はうなった。・・・ 宮本百合子 「どんづまり」
・・・実は傍輩が言うには、弥一右衛門殿は御先代の御遺言で続いて御奉公なさるそうな。親子兄弟相変らず揃うてお勤めなさる、めでたいことじゃと言うのでござります。その詞が何か意味ありげで歯がゆうござりました」 父弥一右衛門は笑った。「そうであろう。・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ りよと一しょに奥を下がった傍輩が二三人、物珍らしげに廊下に集まって、りよが宿の使に逢うのを見ようとしている。「ちょいと忘物をいたしましたから」と、りよは独言のように云って、足を早めて部屋へ引き返した。 部屋の戸を内から締めたり・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・佐野さんが来るのを傍輩がかれこれ云っても、これも生帳面に素話をして帰るに極まっている。どんな約束をしているか、どう云う中か分からないが、みだらな振舞をしないから、不行跡だと云うことは出来ない。これもお蝶の信用を固うする本になっているのである・・・ 森鴎外 「心中」
出典:青空文庫